大谷石細工のカエル。ルーツは弘法大師の伝説にあった!

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栃木県に住む人であれば、誰もが目にしたことがある大谷石細工のカエル。現在も旧家の軒下や飲食店に置かれている姿を見かけます。大谷石カエルを「縁起物として置いている」ことは知っているかもしれませんが、大谷石細工のカエルがいつから作られたのか、なぜ作り始めたのかは意外と知りませんよね。今回は大谷石カエルのルーツをたどっていきたいと思います。

大谷石細工のカエルが誕生するまで

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大谷石細工のカエル。目は金と黒、口と鼻は赤が基本。

大谷石細工にカエルが選ばれた理由は大谷に伝わる伝説と、空前のマイカーブーム、観光地大谷にありました。

大谷町に古くから伝わる伝説

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大谷の奇岩を見上げると、ミソの空洞に蜂の巣があった。

大谷町は、かつて荒針町と呼ばれていました。名前の由来は大谷石のミソが抜け落ちてできた空洞に蜂が巣を大量に作っていたからだと言われています。

布教のために弘法大師が周辺を歩いていると、地域住民が蜂の大群に苦しめられていることを知ります。弘法大師は蜂を退治するために一晩で千手観音を彫りました。千手観音が完成すると、天が開き、どこからともなく親子ガエルが現れます。親子ガエルは岩肌にしがみつき蜂の大群と戦い住民を守りました。

それ以来、地域住民は親子ガエルに感謝し地守神様として崇めました(諸説あり)。

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大谷公園の巨大な親子ガエル

実際には弘法大師ではなく、その弟子だった可能性があり「ある聖僧」とも表現されています。

空前のマイカーブーム

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写真は平和観音。

大谷観音や御止山など、江戸時代から観光地として知られていた大谷に、全長26.93mの巨大な平和観音が完成し、昭和31年に開眼式が行われます(平和観音が完成したのは昭和29年)。昭和30年代は空前のマイカーブームで、平和観音を目当てに、関東一円から大谷に観光客が押し寄せるようになります。

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天開山大谷寺。

御止山【国指定名勝】

御止山の頂上。

観光客向けの商品

about-ooya-stone-frog16当時、大谷に来る人は建材として大谷石を買いに来る石材店やブローカーばかりだったため、乗用車やバスで来るような観光客向けのお土産品はありませんでした。そこで観光客向けのお土産品として目を付けたのが、大谷町に古くから伝わる弘法大師伝説の親子ガエルでした。

大谷石細工のカエルは手先が器用な人ならだれでも作ることができたため、石工はもちろん、石材店の妻や関係者、アマチュア職人なども現れ小遣い稼ぎ感覚で作られました。

大谷石細工のカエルで最も売れたカエル。

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小砂石で作ったかえる。大谷石以外でも制作されている。

大谷石細工のカエルが大人気だった理由

観光客向けに作られた大谷石カエルは栃木県だけではなく全国で置かれるようになります。その理由はマイカーブーム、マイホームブームにありました。

マイカーブーム

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無事を祈るカエル。

医療が発達していないマイカーブーム時代、事故を起こさず家まで「無事カエル」と語呂合わせをした大谷石カエルは、平和観音の存在もあり観光客相手に縁起物として爆発的な人気が出ました。デフォルメされた姿が愛らしく、大小、価格も様々な大谷石カエルは、乗用車やバスで持ち帰れることもあり観光客にぴったりでした。※信楽焼きのたぬきを真似した大谷石細工のたぬきも出回りましたが、大きすぎる理由からあまり普及はしませんでした。

マイホームブーム

昭和40年になると団塊の世代によるマイホームブームになり、石塀で家を囲うのがステータスとなります。当時の家は広い庭に、灯籠やお稲荷さんを置いていましたが、加工技術が進み安い値段で制作するようになり頭打ちとなりました。そこで新たに大谷石のカエルを置くようになり、更に需要が増えました。まっすぐに積む単調な石塀のアクセントとしてデザイン面でも活躍します。

現在の大谷石カエルの価格は当時の金額とほとんど変わっていないそうです。

販促ツールとして

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職人によってデザインが様々。写真は大谷石の粉を混ぜた石膏で作られたもの。

大谷石カエルは、石の仲買人からも販促ツールとして需要があり、全国の業界関係者に縁起物として手渡されました。こうして大谷石のカエルは知らず知らずのうちに一人歩きをし、石の里-大谷を全国に知らしめました。

 

まとめ

空前のマイカーブーム、平和観音の完成、大谷に伝わる伝説が合わさり大谷石細工のカエルが誕生しました。そしてマイカーブーム、マイホームブーム、仲買人の販促ツールとして増々需要が増え全国に広まったことが分かったと思います。

大谷石細工は栃木の伝統工芸品に指定され、再び注目されはじめています。1つ1つ手作業で作られる大谷石カエルならではの「やわらかさ」「職人の味」「個性」を感じてみてはいかがでしょうか。

参考・参照文献
『大谷アカデミー講座』、『遊楽里No.47冬号』