大谷石の塀に小さい傷をつけてしまった、一部が欠けてしまった時ってすごく困りますよね。補修するとなると、破損箇所が小さくても新しい大谷石と交換になりますし、積み直しの工事が必要になります。簡単な補修工事だと思われていたものが、現場によっては大掛かりになってしまうことや綺麗に修復できないことがあります。例えば次のような場合は注意が必要です。
破損した大谷石と同じ石目が採掘されていない。
全盛期には100社以上が採掘していた大谷石ですが、現在は数社にまで減ってしまいました。大谷石と一口で言っても採掘場所によって石目が異なるため、現在では入手不可能な石目が存在します。
交換したい大谷石が下段で使われている。
下段で使われている石を交換したい場合は、上段の石から順番に外していかないと、下段の石を外すことが出来ません。1本だけ外すために、何本も外す必要が出てしまいます。
門柱の片方だけ破損してしまった。
家の顔である門柱が片方だけ、もしくは部分的に新しくなっても、左右で質感が違うと嫌ですよね。また石塀と同じで破損箇所によっては交換が大変になってしまいます。
新材と旧材の石目や色が気になる。
経年変化でミソが抜けたり色が変わったりする大谷石は、交換したところが目立ってしまいます。また同じ石目を使用したとしても、採掘している層によって質感が多少異なってしまいます。
大谷石の門柱を積み直さずに補修
このような時に、破損した一部を魔法のように補修する方法があればいいと思いませんか。今回はその修復方法を一部始終お見せします。
写真は大谷石の門柱が片側一部だけ破損してしまったものです。この門柱に使用されている大谷石は大谷戸室石(とむろいし)と呼ばれるもので、現在は採掘されていません。
風化も進んでしまっているため、石を外そうとすると他の部分に影響が起こる可能性が高く迂闊に手が出せない状態です。石も通常の規格サイズの2倍大きい尺角サイズであり、交換する場合は高額になってしまうため積み直さずに修理することになりました。
戸室石(とむろいし)と読みます。細目大谷石よりもミソが小さく、経年変化で色が変わらない白く美しい肌面が特徴的な高級大谷石。石が柔らかいため外構で使用すると他の石目よりも風化が早い傾向がある。大谷の工芸品の多くはこの石が使用されている。
ワイヤーブラシで表面をクリーニング
まずは剥がれた部分をワイヤーブラシで綺麗にします。これは表面の粉や剥がれやすくなっている部分を一度落とし、中の硬い部分が表面に出るようになります。また接着剤のつきも良くなります。
接着剤とビスで石が剥がれないように固定
風化が進んで剥がれかけている部分はビスで固定します。大谷石の風化は表面側だけ進むため、内側の部分はしっかりしています。
すでに剥がれしまった部分は、剥がれ落ちた欠片が残っていたため再利用します。エポキシ系の石材用接着剤とビスで欠片を石に接着します。
欠片の結合部、小さくて接着剤が塗れない部分は、液体の石材用瞬間接着剤を流し込みます。
万が一に備えてベースとなる大きい欠片は、大谷石内側の硬い部分にビスを打ち、石の表面ごと接着剤が剥がれないように接着しました。
剥がれかけている部分をビスで固定後、剥がれた大谷石の欠片を接着した写真がこちらです。ビス止めであけた穴は接着剤で埋めています。
不足している部分は止水材と接着剤で肉盛り
剥がれてしまった欠片を接着後、欠片が不足している部分や結合部は止水や接着剤を塗り肉盛りします。
欠片の結合部やすき間を止水材と接着剤で埋めた写真です。継ぎ接ぎ部分もなくなり、この時点でも大分修復できているのではないでしょうか。
表面仕上げ(チェーン挽き)を再現
ほとんどの大谷石塀は表面がチェーン模様もしくはビシャン模様が入っています。今回はチェーン模様だったので、肉盛りした止水材にノコギリを使用してチェーン模様を入れていきます。チェーン模様も現場によって様々で、細かく入っているものもあれば、間隔が大きいものもあります。
肉盛した止水材に、のこぎりでチェーン模様を入れた写真がこちらです。止水材を塗っただけの時と比べて補修箇所が自然に見えるようになりました。
補修跡が分からなくなるように着色
チェーン模様を入れたことで、補修箇所は目立ちにくくなり自然な感じになりました。ここから補修箇所が全く分からなくなるように着色をしていきます。補修部分と周りがなじむように少しずつ色を塗っていきます。
補修箇所が自然な感じになるように何度も繰り返し色を塗ります。同じ部分をずっと見るのではなく、周りの景色を眺めたり遠くから見たりするのが自然に仕上げるコツらしいです。
補修工事完了
もともとの門柱と補修箇所が自然に繋がるように着色しました。着色後の門柱写真がこちらです。
どこを補修したか全然分からないですよね。最初からずっと見ていた皆さんは目を凝らせば分かってしまうかもしれませんが、補修したことを知らない人は全く気が付かないと思います。大谷石の粉やモルタルで補修したりするよりもずっと綺麗に美しく補修できました。
まとめ
新しい大谷石を使用せずに、短時間で大谷石の補修が完了しました。通常であれば1本150kgの大谷石(尺角サイズ)のためクレーン付きトラックを使用した作業になります。また車の通りが多く、道路に面しているため交通誘導員も必要でしょう。
大谷石を新しく交換することはもちろん、現場の状況や予算に応じてこの補修方法も1つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
大谷石オブジェを同じ工法で補修した事例はこちらで紹介しております。